研究・開発

history 肥後の創薬秘話

肥後はエリスロポエチンの発祥の地であることを知っていますか?

透析や腎性貧血の患者さんにとって必需品である造血因子エリスロポエチンという薬剤があります。腎性貧血の患者さんに使用されるようになったのは1990年に入ってからでした。

1906年にフランスの研究者のCarnotとDeflandreが、血を抜いたウサギの血の中に血の元になる物質があることに気づき、血を作る物質hemopoietinと提唱しました。

その42年後の1948年にフィンランド,ヘルシンキ大学生理学研究所のBonsdorffとJalavistoによって、erythropoietinと呼ばれたと言われていますが、それ以前の1936年に日本では熊本大学の小宮教授によって、造血因子を総称してヘモポエチンとし,造血因子の概念をひろげて,赤血球にはエリトロポエチン(Erythropoietin)が産生されて,血球産生を調節すると考えました1)2)。

1964年、熊本大学医学部第2内科学講座講師(当時)の宮家隆次先生は同教室の若手医師らと再生不良性貧血患者の尿からerythropoietin(EPO)の精製を試みました。1974年には当時の世界最高の比活性をもつ部分精製EPOを得ましたが、最終的な純化には至りませんでした。

そこで、1974年に再生不良性貧血患者の尿2.5トンから調製した原材料を持って、EPOの世界的権威のシカゴ大学のGoldwasser教授の元に留学されました。この原材料から1976年10mgのEPOの精製に1976年に成功しました。それでもこの純化標本から、EPOのアミノ酸配列が決定されるのは1984年まで待たなければならなかったのです。また当時は遺伝子クローニング技術や大量生産の方法はいまだ未熟で日本においてはクローニングができませんでした。その後EPOの遺伝子クローニングにAMgenとGenetic Institute(G.I)の2社が成功、今日の腎性貧血患者治療の道が開かれました。この2社のEPOの遺伝子クローニングはいずれも宮家先生の純化したEPOから出発しており、宮家先生は「EPOの父」であることは間違いありません。詳しくは熊本第一病院理事長の河北 誠先生の「エリスロポエチン物語-純化の歩みと遺伝子クローニングへの道のり-」(臨床血液54:10,69-77)をお読みください。

文献

小宮悦造先生

  1. 小宮悦造:造血促進物質ノ命名ニ就テ.熊本医会誌.1936;12:2355.
  2. 小宮悦造:腹部臓器ト血液ノ調節.日消誌.1938;37:443-456.

宮家隆次先生

  1. Miyake T,Kung CK,Goldwasser E.Purification of human erythropoietin.J Biol chem.1977;252:5558-5564.
  2. Tokeshi H,Kawakita Y,Miyake T.Studies on the congenital methemoglobinemia.Ⅰ.Case report.Kumamoto med J.1964;17:182-186.
  3. Kawakita Y,Tokeshi H,Miyake T.Studies on the congenital methemoglobinemia.Ⅱ.Diaphorase activity.Kumamoto med J.1966;19:211-219.
  4. Uchida M,Kiyama T,Miyake T.NADH diaphorase in erythrocytes.Ⅰ.Kumamoto med J.1971;24:87-94.
  5. Kiyama T,Tokeshi H,Kusumoto Y.Studies on the congenital methemoglobinemia.Ⅲ.Mass survey.Kumamoto med J.1973;26:57-62.

Goldwasser E.

  1. Jacobson LO,Goldwasser E,Fried W.Role of the kidney in erythropoiesis.Nature.1957;179:633-634.
  2. Fried W,Plzak LF,Jacobson LO.Erythropoiesis Ⅱ.Assay of erythropoietin in hypophysectomized rats.Proc Soc Exp Bio Med.1956;92:203-207.
  3. Fried W,Goldwasser E,Jacobson LO.Studies on erythropoiesis Ⅲ.Factor controlling erythropoietin production.Proc Soc Exp Bio Med.1957;94:237-241.
  4. Goldwasser E,Kung CK.Purification of erythropoietin.Proc Natl Acad Sci.1971;68:697-698.
  5. Chiba S,Kung CK,Goldwasser E.Stabilization of urinary erythropoietin.Biochem Biophys Res Commun.1972;47:1372-1377.
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